江口 彰 Laboratory

分野は、“教育” “映画” “まちづくり”。次世代への取組みを分かりやすく考えてみる。

5回目の節目を終えて考える継承の難しさ

Posted on | 11月 7, 2010 | 5回目の節目を終えて考える継承の難しさ はコメントを受け付けていません。

10/29−11/3まで開催された「クラークシアター2010」http://www.clarktheater.jp/。2006年に第一回目をはじめて節目の5回目を終えました。これまでに映画祭イベントを5回、ショートフィルムを2本プロデュースして、着実に映画文化なるものが北海道大学に定着しつつあります。大学理事クラスがお客様としてこられることや、OBOGのなかで東京でもつい先日の発表した新作『零下15度の手紙』http://www.hokudai-film.com/が話題に上がっているようで、立ち上げた当初から思い出すとかなりの進歩を感じています。

大学の学部生を中心とした企画運営の映画祭イベントと、OBOGと現役大学生とのコラボレーションで作品を生み出す短編映画企画との両輪でこれまで行なってきましたが、それぞれに限界点を感じる時期が到来したというのが率直な感想です。

「クラークシアター2010」は、過去の5回目の比較の中で数値統計のいくつかのデータではじめてマイナスが観察されはじめました。例えば、総動員数前開催より下回ったことは、はじめての体験になります(公式な数値はまだ計算中ですが、昨年より少し下がったことは確かです)。また、第2弾として製作した短編映画の方も今回は前作をかなり超えた製作スキームであり、大学生とコラボレーションという意味では、規模が大きすぎ負担があまりにもあったという反省点があります。

今回の企画イベントを通じて5回目ということもあり「継承」といった先輩から後輩に引き継ぐ難しさを感じています。回数を重ねていくなかで、伝言ゲームのようにいろいろな前提条件や活動目的への理解が希薄化されていき、一方で新しく生み出される価値の量や質が低下している観があります。創設時の理念や目的へのコミットメントは、世代継承が進むにつれて、先輩が熱意を持って理念や目的について後輩に語るべき機会が減ってきており、話題は目の前のイベントの成功の話に集中していきます。

クラークシアター2010の連動企画として行なわれたフォーラム「学生活動に見る、学生成長」http://ameblo.jp/hokudai-jinzai/(主催 北大人材プロジェクト)で「世代間継承の問題は、学生サークルだけでなくゼミの中でも起こっている」と、情報科学研究科の山本強先生もおっしゃっていました。

これは会社組織でもよく起こり経営者が頭の悩ますところです。組織の種類はともかく、毎年代表や中心メンバーがどんどん変わる大学生組織は、より難しさを強く感じます。なぜイベントを企画するのか。なぜ様々な人が協力しているのか。原点への意識は薄れていきます。

もちろん、がんばっている学生が多くいるからこそ今年も多くの来場者がありました。目の前のイベントの成功に集中することがもし学生活動の限界点だとするとやり方を考えていかなければなりません。これまでの5年を振り返りながら、今後の5年を考えていくことのスタートとして「継承」をより深く考えていくことが本格化する、次の段階へシフトする流れが大事になっていくでしょう。

大学生と映画を作る(プリプロダクション編)

Posted on | 10月 3, 2010 | 大学生と映画を作る(プリプロダクション編) はコメントを受け付けていません。

今回、新作の映画『零下15度の手紙』がまもなく北海道大学で上映されます。映画と申しても劇場公開用のような大それたものではなく、地域映画や短編映画、または教育のための映画というくくりで一般的にはなじみのない分野かもしれません。とはいいましても数百万円は使った立派なものです。2008年製作した『銀杏の樹の下で』は世界の7カ国の映画祭で上映されました。今回完成する作品もこれから様々な映画祭にエントリーをしはじめます。どんな結果になるのか、楽しみにしたいと思います。

さて、私のプロデュース作品は若手人材育成の一環で行なわれており、多くの大学生が関わって創作活動をしています。その中身を少し解説したいと思います。映画制作は、プリプロダクションといわれるロケの仕込み準備段階、プロダクションとよばれる通称ロケ、そして編集等の作業があるポストプロダクションに分かれます。今回はプリプロダクションについて書きます。

まず、脚本開発が先行して行なわれます。この脚本に大学生が加わることもありますが、いい本にならないといい作品にならないため、現在はほぼプロや経験者のリーダーシップを優先させて作っています。脚本開発がある程度目処が立ちますと様々な仕事がスタートします。資金を集める動き、役者周りの動き、ロケ地周りの動き、美術系の動き、技術系の動き、この5つカテゴリーに分業します。

まずはお金が必要ですので、それを集めるための営業を行ないます。頭を振り絞ってお金を捻出する方法を編み出し、資金を作っていきます。脚本があるとその脚本を説得材料に企業から協賛をもらったりもできます。営業チームががんばらないと製作チームが動けませんので、脚本の動きの次に重要な動きになります。そして、脚本から役者の人数や役柄が分かりますので、キャストを探し決定する作業から、衣装やメイク・ヘアスタイルの打ち合わせ、演技指導、撮影中の役者周りのことを担うグループを作ります。また、どういった場所で撮影すべきかも脚本から分かりますので、それにふさわしいロケ地を探します。ロケ地選定は、ただたんにふさわしい場所を探すだけではなく、ロケ隊の移動や撮影時の滞在も考慮してリサーチし準備をします。またロケでない場合はセット撮影になりますので、美術系に委ねるなどもします。美術系の動きは、脚本から必要な大道具小道具、セットが必要な場合はセットを作ります。そして、技術内容は資金にもよりますが、カメラや照明、音響機材のレベルやクオリティの検討、音楽製作やCGなどの特殊効果なども決めていきます。

ある程度のクオリティを目指すとその専門的なスッタッフが関わってきます。カメラマンや照明さん、録音技師、作曲家などです。そういった方々に加わってもらいながら作品のクオリティを一歩一歩上げていきます。そのプロスタッフの方々が仕事をしやすいような環境整備が学生スタッフの動いていくタスクになります。会議をセッティングしたり、演技指導の場所を確保したり、仕事の進行がスムーズになるような仕事が主に動くところです。

学生はまだ技術や能力など専門的なスキルや経験がありませんから、そのアシスタントに専念してもらうことになります。現在は、脚本・監督・撮影・照明・録音についてはプロスタッフを配置しています。そしてやや規模が大きくなると、衣装、メイク、スチルあたりに専門的な人を入れていきます。それぞれ専門スタッフは個人で仕事をしますので、監督を頂点とするチームに持っていくのが学生の仕事の大きな役割になります。これは相当なコミュニケーション能力が必要であり、見て分かるように成長が伺えます。

このようにプロの仕事を横で見つつ、多くの経験をしながら、ロケ当日を迎えることになります。

職業観や勤労意識を育成すべきなのか?

Posted on | 9月 12, 2010 | 職業観や勤労意識を育成すべきなのか? はコメントを受け付けていません。

只今、キャリア教育なるもののテキスト(北海道版)を作ることになり「キャリア教育とは?」というものに向き合っています。まとまった量の執筆は修論以来なので久々なのですが、集めてきた資料に「若者の勤労意欲や職業観の育成が緊急の課題」と書かれていました。政府のキャリア教育を推進する何らかの文章でよくお目にかかる言葉なのですが、この言葉にはいつも違和感を覚えます。それは、なぜなのか考えてみたいと思います。

仕事について、子どもの目線からは以下の2つのことが考えられると思います。1つは仕事というものが変わってきてよくわからなくなってきたこと。もう1つは、大人世界や社会に対する不信感があるのではないかということです。

人間の歴史から自明のように生きるための活動は時代と共に様変わりしてきました。狩猟から農耕にかわる過程で、生きるためのノウハウは狩人としてのスキルから作物を育てるノウハウへ移行します。産業革命からは工業化が進み、様々な仕事が生まれました。少し昔までは、子どもにとってまだ分かりやすい職業や職種が多くありました。パン屋、花屋、八百屋、魚屋、運転手、銀行員、看護婦、スチュワーデスetc…しかし最近よく分からない仕事が多くなってきています。コンサルタント、広告代理店、証券マン、SE、カウンセラーetc…子ども以前に、大人でも友人知人の仕事内容が分からない事は珍しいことではない世界になりました。それだけ産業が高度化と専門化され複雑化した成熟した社会になってしまったことがいえると思います。ですから子どもは仕事というものがピーンとこなくなったわけです。

もう一方、社会に信用がなくなってきたことについては最近よくいわれていることです。数々の事件が起こり、犯罪が多発化複雑化し、テロの問題から貧困問題など社会問題が充満していることを見せつけられている子どもは、大人になりたくないと思ってしまいます。さらに、子どもからみて輝く大人に出会った経験も少なくなってきていると考えられるでしょう。時代が安定しリスクをとらなくなった親世代を見て、子どもは夢を語り立ち向っている大人に出会う機会がどれくらいあるのでしょうか。

このように考えると「若者の勤労意欲や職業観の育成が緊急の課題」というのが、ちょっとズレていると感じてしまうのです。

上記の問題を解決するためには、次の手法を検討するとよいと思います。1つは、近現代史中心の社会科カリキュラムに再構築することです。例えば、縄文時代から平安・鎌倉・室町時代などの昔話はさらっとやってしまい、明治維新前後あたりから詳しく学ぶことへ変更します。これでかなり学ぶ時間を確保でき、社会人へ直結する知識を多く得ることができるでしょう。次に考えられるのはメディア教育です。「悪いニュースばかりなぜ報道されるのか?」を考えてみたり、いいニュースも探すとけっこうあるという気づきや、編集や演出などにより意味やイメージが変わることを学ぶ機会があれば、メディアを客観的に受け止め、考えることができるようになるでしょう。3つに夢のある面白い大人の人に出会って話しを聴いたり触れる機会を提供することです。これは現在実施中のキャリア教育の流れで問題なさそうですが、外部の人脈を学校が持っていないという課題は大きいようです。

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このようにこの3つを組み合わせて行なうことで、かなり変わると考えられます。特に小中学校などまだ社会に出るまでリアリティのない世代に対するキャリア教育はほとんど必要性がなく、以上の3つをしっかり行なうことで自然と身につけるべきことが備わっていくでしょう。ただしモラトリアム化の問題について、高校から大学生の一部で深刻なことは事実だと思いますし、このことへの対応方法は、別に違う方策を考え実施しなければならないと思います。これはまた機会を改めて考えてみたいと思います。

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