江口 彰 Laboratory

分野は、“教育” “映画” “まちづくり”。次世代への取組みを分かりやすく考えてみる。

「カタリバ」という授業

Posted on | 12月 16, 2010 | 「カタリバ」という授業 はコメントを受け付けていません。

先週、都立大山高校の「カタリバ」という授業を見学させてもらいました。「カタリバ」とは、設立当時大学生だった今村久美さんと竹野優花さんがスタートさせた、大学生が高校の授業に参画して“語り合う”カリキュラムを企画運営するNPOです。著書『「カタリバ」という授業』によると、その設立から今日まで様々なドラマがあり、ここにきて全国展開がはじまったところです。詳細は、書籍を読んでいただきたいと思います。 Amazon.co.jp http://p.tl/RF3O

「ナナメの関係」をキャッチコピーに、大学生チームが約2ヶ月の準備期間を経て、2時間前後の授業に望みます。体育館で行なわれるワークショップスタイルの授業は、大きな“きっかけ”を高校生に与えていると同時に、教える側の大学生のキャリア形成にも大きな効果をあげていると感じました。同じ授業を見学した神戸の高校教師の方も「感動しました」という感想を述べています。

今村さんが言うには、多くの高校生には“きっかけ”を与えることができているけど、その次の展開を示すことができないでいること、そして“きっかけ”を与えることができない層への壁を感じているといいます。しかしながら、これまでの高校教師ではなかなか行き着けなかった領域を与えているその効果は非常に大きいだろうし、カタリバだけの活動で高校生の育成を全般的に見ていくことは難しく、すべきではないと思います。今後2つの壁については何かしらの仕組みづくりが必要だと思いますが、他者との連携によるところが大きく、現在の方針でどんどん展開してほしいと思いました。

よく考えると自分の高校時代は「ナナメの関係」のなかで育ってきたとふと思い出しました。クイズ研究会の活動中、道内の高校世代の仲間だけでなく、多くの大学生サークルの方々と交流をし、社会人も混ざってテレビ番組の予選会などによく出場したものです。あれは「ナナメの関係」だった。その時間の過程は大きな影響を与え、それがなければ腑抜けな高校生活だったと思います。今村さんのいう“きっかけ”から次の展開という視点は、自分の環境では作り出していたということからも、確かに“きっかけ”だけでは、効果がまだ未完成といえるのもうなずけるところです。

一方で大学生の取り組む姿勢に大きく興味を注がれました。リアクションが高く声が大きい彼らの元気のよさには圧巻させられました。高校生への意識付けがミッションである彼らの立場からすると、自らのテンション作りには相当意識しているという、基本的なところをしっかりしているところは大切です。約2ヶ月の大学生チームは、リーダー格のメンバーがおり、その下に「キャスト」といわれる学生スタッフがつきます。だいたい50名構成の組織で企画運営していく。そのスタイルと北大映画館の取り組みとを比較すると元気の良さについては段違いに感じました。また隣の県など遠隔地から毎日のように企画準備に参加する学生もいるということで、コミットメントの高さやその魅力作りにも驚きました。

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自らの高校時代を振り返りながら高校生にどう接すべきか。その最初のアプローチに自らの経験を内省するといったスタイルは、学生自らのキャリア形成に非常に効果的ですし、教える立場に立つといった経験からの学びは、より質の高いものになると見て取れました。残念だったのは、終了後に反省会を行なうのですが、大学の授業のためにすぐに移動して去っていくキャストもいます。これは課外活動の限界だと感じますし、北大映画館でもよくある光景です。こうしたやりっ放しをなるべくしないためには大学側との連携が必要だとは思いますが、まだまだ先の話になるのだろうと思います。もちろん既存の授業も大事ですが、この経験の振り返りは質的なものからいってもったいないと言わざるを得ません。

授業後の振り返りでは、それぞれの対話の中身を発表しながら問題点を共有し改善点のきっかけを見つけ出すことを重きにおいて行なわれていました。限界点への改善策は当然出てきません。これは難しい視点でしょうし、内容から伺うにはスクールカウンセラーの領域の仕事だと感じました。

今回は当日だけの視察で、準備の過程と終了翌日以降どのような対話を学生がしているのか、また高校生はどう受け止めているのか、非常に気になるところです。しかし約半日の視察は大きな“きっかけ”を自分にも提供してくれたと思います。帰り際、学生と共にご飯を食べに池袋まで出かけました。それぞれ色々な“きっかけ”で参加しはじめた経緯を聞きました。北海道と違い狭いエリアに多様な大学があるため、他大学生間ネットワークの強みがあること、非常に羨ましく思います。しかし札幌も比較的多くの大学が点在している場所であることは確かで、もっと効果的な仕組みづくりの可能性が生まれるのではないか。今後、北海道にカタリバスタイルを導入するときの一つの目標なのかと思いました。

この「カタリバ」は全国に展開しはじめています。北海道ではこれから我々が行なうことになるのですが、首都圏と地域の差による違った課題や方法が見えてくると思います。それらに挑戦するのが来年以降の一つの取り組みになっていきます。

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