デジタル教科書シンポジウムを拝見して
Posted on | 7月 28, 2010 | デジタル教科書シンポジウムを拝見して はコメントを受け付けていません。
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「デジタル教科書教材協議会設立シンポジウム」が2010.7.27に東京で開催されました。Ustreamで拝見した感想を述べたいと思います。はじめに小宮山元東大総長の挨拶では、デジタル教科書教材協議会の設立の意味を話されていました。
「知識が爆発的に増えてきて教育に影響を与えている。学会数は1100を超えており、つまり知識が狭いところに集積している傾向がある。そういう時代に“デジタル教科書”のような情報を集積するものが、変化が激しい社会変化に対応するためへの取り組みになるのではないか?」といったような趣旨だと受け止めています。確かに学会活動や学術論文などの世界に足を踏み入れている経験からすると、分野を狭めて深く掘り下げていくその流れだけが、本当に必要であり意味のあることなのかという疑問を強くもっています。他の軸も存在するのではないだろうか。こうした投げかけの一部にデジタル教科書の運動そのものが関わりを持つというのには興味を持ちます。
その後、マイクロソフト株式会社の樋口泰行社長と、ソフトバンク株式会社の孫正義社長の講演と続き、パネルディスカッションといったラインナップでシンポジウムは進まれています。
基調講演となったお2人のお話のなかで「国際競争力を高めるため」といった目標を掲げていたことに少し懸念を持ちました。競争力強化を押し進める教育は、本来の教育哲学に反する行為でないか?と考えるところはあります。しかしながら、競争するという行為は人間の心理の動機付けに作用する効果がありますので、スポーツの世界のライバルのような存在といったような刺激を与える環境整備は必要なことだと思います。問題は、それら「競争すること」を目標や目的と思わせる表現があまりにも強いということです。
樋口氏のプレゼンは後半ディバイスの説明に移行しましたので、そのあたりの考えを深く伺うことはできませんでしたが、孫氏のプレゼンには“必ずしも競争力アップを目的としていない”といった文脈が見受けられました。しかしながらよくよく聞かないと勘違いを受けかねないとの思ったのは事実で「競争力アップが正しい教育の方向性だ」といった流れを助長しかねない、その心配はよぎります。
例えば「日本の国際競争力をアップさせないといけない」といった内容を世論に訴えるよりも「日本はこれまで世界のあらゆる資源を使い経済大国を作ってきた経緯をふまえ、資源を使わせてもらった感謝の気持ちと、これからの国際社会のなかで多くの問題解決するのは日本人が先頭を担っていくといったリーダーシップをとりつつ貢献できる、頼もしい日本人を育てるために教育をどうすべきか。」そういったような文脈に置き換えていくことが重要なのではないかと、感じました。
さてシンポジウムの中身に戻します。孫氏の話は、数字データなど巧みに使用しながら説得力のあるものでした。その大部分は「教育」の話で「デジタル教科書」の話はごくわずか。あくまで日本人の自信を取り戻すための教育問題を指摘しつつ、如何に変えるべきかという強いメッセージと覚悟を感じます。そしてパネルディスカッションの冒頭では、パネリストの藤原和博氏の短いプレゼンの内容も「デジタル教科書」よりもその前提として、日本の教育の問題点をずばっと指摘するところが爽快に感じました。日本の教育問題は、正解主義にとらわれすぎている!と。
もはやデジタル教科書のシンポジウムではなく、日本の教育をどうすべきかといったテーマにおいて開催されている、そういった場であり、多くの教育関係者には是非一度アクセスしてもらいたいと思います。孫氏の「たいがいにせい」という言葉が印象的なシンポジウムであったと思います。
最後に、便利な世の中になったと痛感しました。昨日東京で行なわれたシンポジウムを朝早くから映像(Ust)を通じてアーカイブで聞けることは、素晴らしいことです。東京と札幌といった地域間格差を若干ながら感じないときでした。しかし問題はアクセスして聴こうと思うかどうかです。その情報収集の仕組みを使えるかどうか、情報への関心の差が大きな違いを生むことも同時に感じます。Twitterをやっていなかったら間違いなくこのシンポジウムの情報も見逃しており、見ていなかったでしょう。デジタル教材の必要性は、こうした情報を収集するライフワークの重要性を認識させ、実行させるのに必要なことだと思いました。
DiTT デジタル教科書教材協議会 http://ditt.jp/
デジタル教科書教材協議会設立シンポジウム http://www.ustream.tv/recorded/8540904